修正:2009/08/14



 という人物を尋ねても、四年生以外の忍たまの多くは誰?と首を傾げるだろう。
 四年生といえば滝夜叉丸を筆頭に田村三木ヱ門や綾部喜八郎、そして最近転入してきた斉藤タカ丸が目立ちすぎていて他に目が行かないのが理由だと、を少しばかり知る人物は語るが、よく知る人物からしてみればそれは誤りであった。
 教師や同級生、或いは一部の上級生曰く、アレは上手いこと己を印象に残さないようにしているのだ、と。






二、あたかも草の如く






「んー、暇だなぁ……」
「暇だと思うのでしたら仕事をしてください」
「予算会議に提出する予算の原案がまだまとまってませんよ鉢屋先輩」

 委員会活動開始からずっと横に寝転んでゴロゴロ転がり続けるという正直鬱陶しいことこの上ない学級委員長委員会 委員長代理こと鉢屋三郎に、一年生の二人組みは極めて冷静に自分の仕事をしながら途中まで書かれた書類を差し出した。
 お前たちイイ性格になったなぁ、と鉢屋は苦笑しながらそれを受けとると、そのままポイッと入り口の方へ投げ捨てた。

「あ、何するんですか」
「僕が本当の予算原案なんて書いたらどうせまた却下されるだろ」
「それは、お茶菓子の代金も計上するからです」
「だって食べたいだろう」

 顧問の学園長先生といい、鉢屋三郎先輩といい、自分に正直だなぁと庄左ヱ門達はつくづく思った。似たもの同士なのだ、二人は。人をからかうのが好きな所とか、面白いことを優先する所とか、自分の好きなことを押し通す強引さとか。
 どちらも優秀な忍者(片や元、片やたまごではあるが)というのも共通点か。
 まあ、自分もその恩恵を享受しているのであまり強くはいえないが、とはいえ仕事をしてもらわねば少し困る。自分たちだけで終わらせられるほど学級委員長委員会の仕事は易しくないのだから。

「予算もそうですが、学年混合のイベントの詳細、そろそろ決めないとまずいですよ」
「それから学園祭の出し物決めと新委員会設立の認可もあります」

 どれも一年生の庄左ヱ門や彦四郎で決められるものじゃない。

「うーん、どれも面白くなさそうなことばかり……もとい、管轄違いだ」
「本音が全部駄々漏れです先輩」
「庄ちゃんったら冷静ね」
「きり丸の顔にならないでください」

 はーっと庄左ヱ門は溜息をついた。

 ここのところずっと鉢屋は仕事をせずにゴロゴロしている。
 三日連続で委員会にきちんと顔を出す快挙も(何せ気分が乗らなければ庄左ヱ門達が探しに行くまでやってこないということも平気でする人なのだ)、仕事をしないのであれば正直意味はない。
 寧ろ目の前でゴロつかれると目障りなのでいない方がいいのかもしれない。

(委員会には顔を出すのになんで仕事しないんだろう?)

 彦四郎は首を捻った。
 仕事したくないならいつものように木の上で昼寝でもしていたらいいのに、何でここ数日は真面目に顔を出しているのか。探しに行く手間は省けていいが若干腑に落ちない。
 今この場にいない学級委員長委員会 委員長代理補佐、、でもいてくれればそれなりに働いてくれるのに、残念ながらその人は今学園長のお使いで遠方に行ってしまっている。
 そういえば、代理補佐はいつ帰ってくるのだろうか。
 横で筆を走らせる庄左ヱ門に聞いてみるが、分からないと返ってきた。
 
「でも、もうすぐなんじゃないかな」
「え、なんで?」

 理由を庄左ヱ門から聞く前に、その予測が当たっていたことを証明された。

「ただいま戻りました」

 スッと戸を開いて入ってきたのは浅木色私服を来た少年だった。
 目が大きく、輪郭も柔らかいせいで若干幼い印象をうけるが、れっきとした四年生だ。

「おかえり、
「お帰りなさい、先輩」
「先輩、お疲れ様です」

 一年生二人は筆を置いてパタパタとの足元に群がった。
 はしゃがんでその子たちの頭を撫でてやりながら、ニコニコと笑った。

「二人とも、鉢屋先輩はいい子にしてましたか?」
「まて。何故そこに私の名前を挟むんだ?」

 "鉢屋先輩は"は余計だろう"鉢屋先輩は"は。

「では、真面目に監督責務を果たしていただけていたと」
「もちろん。この私を誰だと思っている」

 鉢屋三郎様だぞ。
 その鉢屋三郎先輩だから聞くのです。

「寝転がったまま胸を張るなんて器用で結構ですが、どう見ても監督するポーズではありませんよね。ついでに監督以外は何も仕事してないように見受けられますが?」

 扉近くに落ちていた予算原案の書類を拾い上げ、空白なのを確かめられてしまえば言い訳も出来ない。

「更に付け加えると先輩が真面目に顔を出し始めたのは三日前からです」
「その間、一切仕事はしておりません」
「庄左ヱ門、彦四郎……お前たち……!」

 ホント、お前たちイイ性格になったな。
 それもこれも鉢屋先輩のお陰ですよ。
 うふふ。
 あはは。

「では、そんな代理補佐の代理も出来ないような方は放っておいてお茶にしましょう。お土産の羊羹買ってきましたから」

 二人の為に荷物の中から紙包みを取り出せば、鉢屋が勢いよく起き上がった。

「それはもしや栗入り?」
「はい、栗入りです。それも大粒の」
「……………………さん」
「そこにある学園祭と委員会新設とイベントのお仕事が終わってれば鉢屋先輩にも召し上がっていただけましたが」

 残念です。と頬に手をついて溜息をつく憂いの様は乙女のように魅力的だ。

「一刻……いや、半刻で終わらせるからそれまで残しておいてくれると私はを信じている!」
「はい、頑張ってください」

 先輩の良い所は相手をからかい過ぎない所だなと、庄左ヱ門は無駄に冷静に分析した。











「鉢屋先輩がここ数日委員会にマトモに顔を出していたのって先輩の代わりだったんだね。代理補佐の代理ってややこしいけど」

 お土産の栗羊羹目当てだったんだ。

 彦四郎がその羊羹を食べながら隣の庄左ヱ門に言えば、彼はお茶をズズッとすすり、うーんどうかな、と首を捻った。

(寧ろ、先輩に早く会いたかったからだと僕は思うけど)

 委員会にいれば先輩の方から会いに来てくれるだろうから。
 先ほど先輩がそろそろ帰ってくると言い当てられたのも、鉢屋先輩がゴロゴロしながら扉の方ばかり眺めていたからだ。
 栗羊羹が目当てなら、仕事もキチンとこなしていたはずだ。


 四半時もしないうちに委員長代理を手伝いにいった代理補佐の姿を眺めながらそんなことを考えれば、


 庄ちゃんったら冷静ね。


 誰かがそう突っ込むのが聞こえたような気がした。





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