が入学するにあたって当然のように教師陣から反対の声があがった。

 曰く、女の子が男と同じ授業についていけるわけがない。
 曰く、男ばかりのところに女の子を放り込めば、低学年のときは良くても高学年になれば必ず問題が生じるはずだ。
 曰く、何せ前例がない。どんな問題が起こるかわからない。

 などなど。

 困惑と憂慮と拒否。
 教師たち全員、一様に持った感情は違えど、歓迎していないことは確かだった。

 しかし、そんな教師たちの言葉など学園長は余裕たっぷりに一蹴した。

「授業についてこれぬのなら通常通り落第、もしくは、素質無しとして退学とすればよい。性別云々については儂に考えがあるから心配無用じゃ。忍者の世界は常に予測不能の世界。問題が起こることを恐れ、入学させないなど言語道断。忍ならば如何なる事態が起ころうとも対処できる精神を持たねばならん」

 そんな海千山千の台詞を言われれば教師達も黙るしかなかった。

 もう引き受けちゃったから断るなんてできないわい。なんて本音が隠されてると薄々感づいていたとしても、だ。


「して、学園長の言う考えとは?」

「うむ、それはのう――」


 渋る教師陣達を納得させるために学園長が考えた一つの条件。

 それは彼女がこの学園の忍たまであり続けるための制約であった。








七、の色はお似合いですが








 保健室で校医の新野先生に怪我を見てもらった後、は一人で自分の部屋に引っ込んでいた。
 腹の傷はそう深くなかったが、若干炎症を起こしかけているので無茶はしないように、と新野先生が言ったため、滝夜叉丸からせめて今日と休みの明日だけは安静にしていろと半ば閉じ込められるように部屋に入れられたのだ。

 傷が残ったらどうする。

 まるで己のことのように目くじらを立て幼馴染が言った言葉を思いだせば、口の端が僅かに上がった。
 自分は忍たまといえど忍者を目指しているのだから傷など気にしていないのに、滝夜叉丸も本当に世話焼きだなぁ、とその彼が敷いてくれた布団の上に座りながら独りごちる。
 が頓着しないからこそ滝夜叉丸が気にすることになるのだが、彼女の思考はその方向には向かなかった。彼の心配を嫌だと思わないからかもしれない。



 不意にパタパタと誰かが小走りにやってくる音がして、は締め切っている戸に目をやった。

 誰だろう?

 足音はの部屋の扉の前でとまり、間もなくして「入っていいか?」と声がした。
 このまだ声変わりしていない高めの声は馴染み深い。
 が「どうぞ」と返せばすぐに戸は開いた。

、お使いで怪我をしたとは本当か?」

 一週間ぶり、と言う間もなく開口一番そんなことを言ってきたのは同じ四年生の田村三木ヱ門であった。
 滝夜叉丸達の時とは違い、は今度は素直に「はい」と答えた。今さら誤魔化してもしょうがない。

「お風呂場でタカ丸さんと綾部にでも聞きましたか?」

 湿っぽい髪と頬の血色のよさから想像して言い当てれば、三木ヱ門は「あ、ああ」と詰まらせながら頷き、そんなことよりも、と愕然と言った。

「歩けない程だと言っていたが、まさか、本当に……?」
「いえ、歩かせてもらえなかっただけで、歩こうと思えば普通に歩けます。怪我自体は大したこと無いんです」
「な、なんだ、そうだったのか……」

 の言葉にホッとしたのもつかの間、

「お前の"大したことない"はアテにならん」

 突然、背後から不機嫌な声がし――とっさに声の主が思い当たった三木ヱ門は露骨に嫌な顔をして振り向いた。

「滝夜叉丸――」

 予想通りの人物が開けっ放しの戸の前にいるのを見つけ、何しに来た、と反射的に突っかかろうとしたが、相手が両手で持っているものに気づいて喉元で押し留めた。
 ついでに振り向いたことで奥にいた二人の存在にも気づいた。それぞれ何故か湯飲みとヤカンを持って立っている。

、食事を持ってきてやったぞ」
君、怪我は大丈夫?」
ー、おみやげー」

 どやどやと、三人はそれぞれ部屋の主の名を呼んで中に入ってきた(いや、一番後ろの綾部が押すので進むしかないのだ)ので、滝夜叉丸の持つ食事の乗ったお膳にぶつからぬよう、三木ヱ門は部屋の奥へと逃げた。

「こら、ヤカンを持ったまま押すな喜八郎!危ないだろう!」
「だってタカ丸さんでが見えないんだもーん」
「怪我開かせてゴメンね君」
「タカ丸さん、コイツが勝手にやったことですから気にしなくていいんですよ」
「滝ってば依月のお父さんみたいだよね」
「なっ!?」
「お前たち、もっと静かに出来ないのか!」

 入ってくるなり好き勝手言い始めた三人に思わず三木ヱ門が怒鳴りつければ、すかさず滝夜叉丸が(綾部に返すはずだった勢いも含めて)食って掛かった。

「なんだと田村三木ヱ門!お前の方こそ喧しいぞ!大体なんでお前がここにいる!」
が怪我をしたとそっちの二人に聞いたから心配してきたんだ!何か文句あるのか!」

 すわ喧嘩か、となったところで今まで皆の話を聞いていただけの部屋の主がようやく声を発した。

「二人とも、言い争うのは止めませんから外でお願いします」

 お願い、とは言うもののその瞳には有無を言わさぬ光が湛えられている。

 ここで騒ぐな。

 そんな言葉が聞こえてきたような錯覚を覚えた。

「くっ、に免じて今日のところは引いてやる」
「ふん。それはこっちの台詞だ」

 最後にバチバチッと小さめの火花を飛ばしてから、二人は視線を逸らし、小競り合いはそこで終了した。
 そんな二人の様子を見て「おや、やめるんですか?」と、は珍しそうに呟いた。いつの間にかちゃっかりの隣に座った喜八郎もコクリと頷く。
 いつもならばあの程度言われたぐらいで争いをやめる二人ではなかったが、今日は流石に怪我人であるに遠慮したらしい。狭い部屋の中であったのも理由だろう。

「とりあえず、座ったらいかがですか?」

 見上げるのもそろそろ疲れてきました。と布団に座ったが訴えれば、滝夜叉丸は思い出したかのように手にしていたお膳をの前に置いて綾部の横に座った。
 滝夜叉丸とは対角線上、綾部の向かい側に三木ヱ門も腰を下ろし、最後にタカ丸がをはさんで滝夜叉丸の前に座った。

 ……狭い。

 の部屋は元々一人用だ。人が五人もいると手狭に感じるのも無理は無い。集まった人間がむさ苦しくないのがせめてもの救いだ。
 男四人に囲まれたことで少々圧迫感を感じながら、は枕近くに置いてあった荷物を手元に寄せ、中から羊羹――昼過ぎに委員会に持っていったものとは別の芋羊羹を取り出した。

「これ、お使いのお土産です」

 約束してましたもんね、と綾部に向けて言えば彼は満足げに頷いた。
 タカ丸が「お茶淹れようか」と皆に湯飲みを配ると三木ヱ門が瞬いた。

「なんで僕の分まで湯飲みが用意してあるんだ?」
「喜八郎君が多分こっちに三木ヱ門君がいるだろうって言ってたからねー」

 凄いよね、というタカ丸の言葉を受けて綾部は無表情のままピースをした。

「予想どーり」
「またお前は妙な所で変な鋭さを……」

 私は聞いていないぞと、少し疲れたように滝夜叉丸が呻いた。
 そんなやり取りをしながらヤカンをまわしてそれぞれ自分の湯飲みにお茶を入れていく。羊羹も切り分け、それが全員にいきわたった所で誰ともなく切り出した。


「それで、どうして怪我をしたんだ?」
 
 全員が気になっていたことだった。






 学園長のお使いはさほど危険なものではなかった。まあ少々面倒な、という程度だ。
 本来ならば先に滝夜叉丸に伝えていた通り、五日で帰ってこれるはずだった。
 だが、道中に寄った村で少々問題が起きた。否、聞いてしまった。


「近くで女の子が連れ去られる事件が頻発していると村の人が話していまして」
「……拐しか」

 滝夜叉丸が渋い顔をした。

「はい。それで、放っておくのも忍びなかったので村娘に変装して捕まえることにしました」

 そんな危険なことをあっけらかんと決めるな。そんな滝夜叉丸の声が聞こえるかと思ったが、彼は渋い顔をしたまま黙っていた。
 その斜め向かい側で、村娘、という単語を呟きながら三木ヱ門は何故か顔を引きつらせる。

 二人の不自然な様子など気に留めず、は続けた。


 囮として人攫いが出るという道を歩いていたら、そう村から離れていない所でそいつらは現れた。少し目立つ色の着物を着ていたとはいえ、真昼間の往来でこうも簡単に引っかかってくるとは、随分と大胆かつ警戒を知らない者たちだ。

 背後から「おい」とあまり品のいいとはいえない男の声で呼び止められ、は素直に立ち止まった。
 気配からして三人。道の脇の森などに他に人が隠れている気配はしない。
 場合によっては娘たちを助けるだけにしようと思っていたが、これなら全員あしらえない事も無い。
 そう判断しては振り向き、そして――


「普通、最初は大人しくしろなり金を出せなり言うものでしょうに」

 経緯を話していた彼女はむくれた。

「なのに振り向いた瞬間斬りかかってくるなんて、全くもって作法のなっていない人たちです」

 なんて無作法な。と言うが、丸みを帯びた怒りは幼さばかりが強調され、あまり怖くはない。
 人攫いに作法も何もないだろうに、という三木ヱ門の突っ込みは黙殺された。


 予想だにしなかった攻撃のタイミングの早さに対応し遅れ、腹に攻撃を受けてしまった。
 とはいえ、咄嗟に致命傷だけは避け、仕込んでいた袖箭などで反撃に出れば人攫い達は存外あっさりと地に伏した。
 三人を縛り上げた後、娘たちの居場所を白状させ(幸い、連れ去られた娘たちはまだ売られる前で山の隠れ家に閉じ込められていただけであった)彼女たちを救い出し、男たちを村へと突き出せば、村人から大いに感謝をされた。

 良ければお礼を。やや、怪我をしているではありませんか。大変だ早速手当てを――

 そんな感じで半ば強引に村に留めさせられ、二日ほど浪費してしまった。






「怪我をした理由はこんな感じです」
「いやあ、君は強いんだねー」

 が顛末を話し終えれば今まで黙って聞いていたタカ丸は感心したようにパチパチと手を叩いた。逆に所々ツッコミを入れていた三木ヱ門と滝夜叉丸は複雑な顔をしたまま何も言わない。綾部は羊羹をもそもそと食べている。

「それにしても、変装とはいえかよわい娘にいきなり切りかかるとはなんて野蛮な人たちだったのでしょうか」
「酷い人たちだったんだね」

 そういうタカ丸さんは背後からいきなり人を襲っていた元辻狩りでは?と綾部は思ったが羊羹が口に入っていたので口には出さなかった。

「かよわい娘……」

 三木ヱ門は何か変な言葉を聞いたかのようにその部分だけ口の中で反芻する。
 クラスは違うがが女装した姿は何度か見たことがある。
 その姿が先ほどチラチラ頭の中をよぎっているが、どう考えても――

「そりゃ、驚いて斬りつけたくもなるわ……」

 げんなりした様子で三木ヱ門は呟いた。滝夜叉丸も目を瞑って小さく頷いている。
 綾部はまだ羊羹を食べている。皿が空になったところで所でが自分の分の羊羹も綾部の皿にのせたのであと暫く沈黙し続けるだろう。
 タカ丸だけはきょとんとして三木ヱ門を見た。

「どういうこと?」
は大抵の事は基本的にソツなくこなすのですが、唯一女装に関しては……非常にと言うか異常と言うかとにかく酷いんです」
「ええ、嘘っ!?」

 タカ丸は目を丸くした。
 が何でも出来そうな感じがするのは元より、顔立ちだって女装むきだ。忍たま暦が浅くてもそれは分かる。
 だが、三木ヱ門言葉を肯定するように、心の底から残念そうに滝夜叉丸も呟いた。

「驚くのも無理はありませんが、なんかもう、アレは本当に残念な出来で……」

 軽く犯罪だ、とまで言えば、当の本人から異論が上がった。

「心外です!私の女装は紅の色も着物の合わせ方も完璧と山本シナ先生のお墨付を頂いてます」
「色や柄云々の話じゃないっ。お前の化粧は酷くて目も当てられないんだ!」
「化粧の方は山田先生のお墨付きですよ」
「それは明らかに駄目ってことじゃないかぁっ!」

 よりにもよって山田先生かよっ!と滝夜叉丸と三木ヱ門はビシッと突っ込んだ。
 一年は組の実技担当である山田先生の女装の酷さは学園中の知るところである。その姿を一目見れば吐き気を催し、三日三晩夢にうなされると言われるほどだ。ああ恐ろしや。
 同じは組の先生なら土井先生の方が遙かにマシ(本気を出した彼の女装は凄いらしい)のだからそっちに意見を貰えばいいのに。

だって山田先生の女装の酷さを分かっているはずなのに、何で教わりにいこうと思うんだ?」
「一流の技術を持った人間が一流の指導者たりえるとは限らないように、技術力は持ち合わせていなくとも指導者として一流である人もいるということです」

 至極真面目な顔をして、はもっともらしく言うが、三木ヱ門は誤魔化されなかった。

「いや、山田先生の化粧の場合、技術力と指導力の両方とも明らかにアレだと思うが……」
「人の意見とは全て一致しないからこそ意義があるとは思いませんか?平たく言うと、まあそういう人もいるでしょう」
「言っておくが僕の意見が一般論だからな」
「というかお前、火縄銃の腕前が凄いからと山田先生に教えを請いに行ってただろう。あれはさっき言ったことと違うじゃないか」
「流石は滝夜叉丸。鋭い指摘です。でも大丈夫。この世にはこんなときに相応しい言葉がありますから」

 は一拍おいてから。

「それはそれ、これはこれ、ウチはウチ、タコはタコ。と」
「それは他所様を羨む子供を諭すための台詞だ!ああもう、喜八郎、お前も何か言ってやれ!」

 から貰った羊羹を平らげ滝夜叉丸の羊羹を見つめていた綾部は、視線を羊羹から本人へと移動させ、パチリと一回瞬いてからを見て言った。

「私、ならどんな姿でも良いと思う」

 わあ、男前。

 度量が広いのか頓着しないだけなのか。多分後者だと決め付け「お前に何かを期待した私が馬鹿だった」と滝夜叉丸は肩を落とした。

「しかし、なんでそんなに言うんですしょうね。私の変装の成績は四ですよ」
「ああ、何で女装だけで成績がつかないんだ!」

 滝夜叉丸は頭を抱えて叫んだ。
 女装は他の七方出(七つに分類される職業への変装のこと)などの化け物の術の一つとして扱われる。なので他の変装の成績と平均化されて酷さが目立たないのだ。
 女装は数ある変装の中の一つで、必須と言うわけではないから仕方ないといえば仕方ない。
 でも、殆どの成績が五なのだから、変装の成績が四と一つ低いことに疑問を持ってくれてもいいのにとも思う。

「なんで他の変装はいいのに化粧の腕前だけはああなんだ?」
「まったくだ。色や柄の趣味は良いというのに……」

 犬猿の仲である三木ヱ門と滝夜叉丸が仲良く溜息をついた。

「うーん、でもやっぱり信じられないなぁ」

 話を聞いていたとタカ丸がのんびりと羊羹を切り分けながら独り言のように呟いた。
 滝夜叉丸達が嘘をついているとは思っていなかったが、どう考えても似合いそうであったから。

 無理もない。
 三木ヱ門は心の中で同意した。
 自分だって最初見たときは何かの悪い冗談かと思ったのだから。
 見なければ一生信じなかっただろう。というか見ても暫くは信じたくは無かった。
 今の四年生は見た目の良い者たちが多く、その中でもは比較的上の部類だ。
 あどけなさが残ってはいるものの涼しく整った顔立ちで、時折、凛とした雰囲気とぬぐえきれないいとけなさが相まって(これは本人に言うと青筋を立てられるので絶対に言わないが)可愛いとすら感じるときもある。
 要するには女顔なのだ。

(というか……女、なんだよなぁ)

 改めて視線をに向ければ、彼女は滝夜叉丸が運んできたご飯にようやく口をつけている所だった。実に綺麗な所作で食事を口元へと運んでいる。
 女らしさなどおくびにも出さないから忘れがちになるが、は女だ。
 三木ヱ門はそのことを知っているし、彼が知っていることをたちも知っている、数少ない人間のうちの一人である。

 最初は女であることを隠すためにワザとあんなに酷くしているのかとも思ったが、どうやらそういう訳ではないらしかった。は真面目に女装してああも残念な結果になるのだ。
 前に一度、六年生である立花仙蔵の女装を褒めていたから美的感覚がずれているということでもないのだろうに。
 一つだけいえるのは、は可愛く美しくなるということに対しての力のかけ方が他のものと比べて明らかに低いということ。手は抜いてはいない。真剣にやっている。だけど無意識のうちにおざなりになっている部分があるのだろう。
 つまりは興味がないのだ。
 彼女は、どちらかと言うと"格好いい"という事のほうに力を入れたがる人間だった。
 変わっているのである。
 そうでなければ女で忍たまなどやろうと思うわけがない。

 それにしても、ただ女物の服を着るだけでいいはずなのに。

「あれだけ壊滅的になるのは女としてどうなんだ……?」

 気がつけば滑るようにそんな言葉が零れていた。
 囁くような小さな声だった。それでも、部屋に沈黙をもたらすには充分な音量で。

 三木ヱ門が己の失言に気付いて口元を押さえるた時には、すでに遅かった。

 滑り落ちたものはもう元には戻せない。
 誰しもが動きを止めており、それは全員が今の言葉を聞いたという証拠でもあった。

 まるで時が凍ったかのような錯覚を覚える。と言うのは陳腐な表現だろうか、と三木ヱ門は頭の隅で思った。自分の心臓の音がやけに五月蝿く聞こえてくる。

 誰しもが動けないでいる中、一番早く動きを見せたのは綾部だった。

「タカ丸さん、黙ったまま穴に埋まるか、喋る前に穴に埋まるかどっちがいいですか?」

 いつもと変わらぬ無表情の中、瞳だけが不穏な色に染まっている。普段の何処かとぼけた雰囲気が今は微塵も感じられなくて、タカ丸の背に冷たい汗が伝った。

「それどっちも同じ意味だよね?じゃなくて……えええええ!!!?まさかっ、いや、やっぱり!?おむあっ――」

 女の子!と叫びそうになったタカ丸の口に滝夜叉丸が素早く手にしていた羊羹を突っ込んで封じた。
 こんな所で叫ばれたら長屋中に知れ渡ってしまう。それだけはなんとしても避けなければいけなかった。

……」

 羊羹を突っ込んだ勢いのままタカ丸を口を封じた滝夜叉丸がチラリと彼女に視線をやれば――表情にはそれらしい動揺は見られなかった。

 失言してしまった三木ヱ門は口を押さえたままダラダラと汗をかいている。

 は緩やかな動作でぬるくなったお茶を一気に飲み干すと、

「まいりましたね」

 溜息とともに肯定の言葉を呟いた。






 が忍術学園に入学するに当たって学園長から出された一つの条件。

 それは、忍術学園の忍たま十一人以上に女と認識されれば即退学に処すというものだった。




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