修正:2010/11/10



 忍術学園の朝は早い。
 たとえ雲で日の光が遮られていつもより薄暗くても、日が地上に出ればそれは既に朝であり、活動の時間だ。
 一年は組の黒木庄左ヱ門は定刻どおりに起き出し、同室の二郭伊助と共に井戸までやってきて、いつもどおりタライに井戸水を汲んで顔を洗った。
 それから歯磨きを始めたところで、四年生の長屋の方からポテポテと歩いてくる紫色の影を見つけたので、気軽な調子で声をかけた。

「あ、おはようございますタカ丸さん」
「おはよ〜庄左ヱ門君、伊助君」

 声をかけられた斉藤タカ丸はいつもののんびりとした口調で挨拶を返した。その視線が庄左ヱ門や伊助だけでなく当たり一帯に巡らされ――再び二人に戻って首をかしげさせた。

「あれー、やっぱりいないなぁ」
「誰か探してるんですか?」

 顔を拭いた手ぬぐいを首にかけた伊助が、タカ丸が見た辺りを自分でも見ながら質問した。

「うん、なんか四年生の長屋に僕以外誰もいなくて……」
「そういえば、四年生どころか五、六年生の姿も見えないですね」

 伊助の言葉どおり、井戸や水場に集まって朝の支度をしている忍たまの中に、上級生の姿は一人も見えなかった。

「もしかしたら」

 ぽんっと閃いたように庄左ヱ門の頭の上に電球が灯った。

「上級生のみの学年混合実習がもう始まっているんじゃないでしょうか?」
「ええ!?だってまだ授業はじまる時間じゃないよ?」
「普通の授業とは違いますから、開始時間もいつも通りというわけじゃないと思います」
「庄左ヱ門、その学年混合実習って何?」

 話を聞いていた伊助が、首をかしげながらクイックイッと庄左ヱ門の寝巻きの袖を引っ張った。

「四、五、六年生で三人一組のチームを作って実戦型の実習をするらしいよ。学級委員長委員会で決めたことがあったから少しだけ知ってるんだ」
「へぇ〜上級生だけで。さぞかし凄い実習内容なんだろうなぁ」

 説明口調で説明すれば、伊助は忍者している上級生たちの姿を思い描き、キラキラと目を輝かせた。その手が握る反対側の庄左ヱ門の袖を、タカ丸が引っ張った。

「庄左ヱ門君、皆何処に行っていつ頃帰ってくるのか分かる?」
「それはちょっと分からないです。そこまで先輩方は決めてなかったので」
「そうなんだ。あー、折角約束したのに……」

 タカ丸はカクンッと両肩と頭を落とした。

「何を約束してたんですか?」
「実習前に髪を結わせてくれるって君と約束してたんだ」
先輩と?」

 そういえばタカ丸と同じ四年は組だったことを思い出す。伊介はが誰なのか分からなかったのか、小さく頭を傾けた。

「火薬使うから纏めさせてくれるって言ってたのに……」

 タカ丸は懐から鋏を出して物悲しげな顔でシャキシャキと刃を擦り合わる。
 数回そうした後、キッと空を見上げて、

「実習から帰ってきたら絶対もう一回結わせてもらうんだから……!」

 強い意志のこもった呟きは曇天の空へ吸い込まれていった。
 








十三、日はけずに夜来たり 〜ろの段〜









「くしゅっ」

 学園に置いてけぼりにされた髪結いの意志が伝わったのか、は小さくくしゃみをした。

「ん?冷えるかい?」

 包帯を巻く手を止めて、善法寺伊作が伺うようにの顔(といっても変装しているので滝夜叉丸の顔だが)を見た。
 肌寒さを感じる気温じゃないが、汗とこの湿気で体を冷やしたのかも知れないと、伊作は心配するが、はいいえ、と首を振った。

「大丈夫です。寒くはありませんから。それよりも――」

 は不和雷蔵の顔を借りた伊作の姿を瞳に映し、疑問を口にした。

「中在家先輩と七松先輩は別行動をとられているとみていいのでしょうか?」

 ちょうど包帯の端がキュッと結ばれ、保健委員長の手が止まる。

「そうだね、まず間違いないんじゃないかな?」

 と三郎が長次に会ったときも、伊作が小平太と接触したときも、共にパートナーの姿は見えなかった。見えずとも一緒に行動していたのなら今こうして悠長に手当てなどしている暇などなかったはずだ。

「あの二人は遠くにいても互いに連絡が取れるからね。何せ六年間、頻繁に一緒に組んできたわけだから。僕らよりも連携の取れた動きが出来て当然だ」

 別行動してはいけないというルールは無いからそれも有りだろう。連絡手段さえ確立していれば手分けして探すのは効率的だ。
 説明する伊作の言葉に今度は鉢屋が返した。

「となると、さっきの指笛は僕たちを見つけたという合図ですか」
「詳しくは僕も知らないけど、たぶんね。さ、、今度は肩を見るよ」

 立花仙蔵の格好を模した三郎に視線を向けて答えてから、伊作は立ち上がっての右隣にしゃがみこみ、服越しに彼女の肩に触れた。
 雷蔵か三郎が滝夜叉丸を診ているような現実ではまずありえない光景を眺めながら、三郎がふむっと思案顔をした。

「ここで長居するのはあまり得策じゃなさそうですね。伊作先輩、の治療が終わったら移動しましょう」
「……うん、僕もそうした方がいいと思う。はどう?」
「私もお二人の意見に賛成です。出来るだけ中在家先輩チームとは接触したくありませんから」

 は苦笑した。
 六年ろ組のチームを真っ向から相手にするのは正直避けたかった。
 七松小平太はその人知を超える身体能力が、中在家長次は冷静で隙がないところがとても恐い。
 対処法は一応考えてはいるが果たしてどこまで通用するか。出来ることなら出会いたくない二人であった。

「じゃあ、そういうことで。の手当てが終わるまで僕はこの辺を見回ってきますよ」
「お気をつけて」

 言うや否や森の中に入っていった三郎の背をは見送る。

「ああ、うん。気をつけて」

 一拍遅れて怪我に集中していた伊作がそう紡いだときには、もう三郎の姿は見えなくなっていた。

 どうも怪我を前にすると他への反応が遅くなる。伊作は駄目だなぁと胸中で呟いた。
 その分治療に専念しているということになるのだが、実習中にこれでは確かに小平太に轢かれても仕方ない。
 誰彼かまわず治療する性分は治すつもりはない(治せるとも思わない)から、せめて外での治療中は没頭しすぎないように気をつけないと。
 内心苦笑しながら伊作はそんなことを考えるが――再び診察中の肩へ意識を戻した途端、周囲の気配共々いま考えていたことは頭の隅の隅に追いやってしまうのだった。



「肩を庇いながら走ってたから心配だったけど、どうやら外れかけてたりはしてないね。……ちょっと動かすよ」

 痛かったら言ってと告げて、伊作はの腕を慎重に上下左右に動かした。

「痺れとか刺すような痛みはない?」
「今はありません。ただズキズキと痛むだけです」

 ぶつけた直後は酷く痛んだが、今は痛みはだいぶ落ち着いてきている。
 動かす事で痛みは感じるけれど異常に痛むという事はないと、は伊作に伝えた。

「肩には腱や筋が多く集まってて痛めやすいんだけど……大丈夫そうだね。骨にもヒビは入っていないみたいだ」

 最後にの腕を真上に上げて伊作は診察を終えると、彼女から離れて正面に向き合うように正座した。

「今はちゃんと治療できないから、帰ったら新野先生に見てもらおう」

 伊作の言葉には素直に頷いた。
 しっかり治療できないことに物足りなさを感じつつも、伊作もの反応を見て小さく頷く。
 本来なら湿布を貼るなり腕を吊るなりするべきなのだろうが、薬草を探して湿布薬を作っている暇も、腕を吊るせるような状況でもない。
 保健委員長としては気が気でない状況だけど、今は実習中で仕方がないのだと己に言い聞かせる。

「無理かもしれないけど、できるだけ動かさないようにね」
「…………善処します」

 右は利き腕なので難しい話だが、怪我が関わると妙な迫力が生まれる保健委員長の前で無理ですと言うのは憚られ、は無難な答えを返した。
 そんなの濁した返答には深く突っ込まず、伊作は怪我の手当てのために広げた包帯や薬を小さな箱に戻しながら、思い出したように言葉を続けた。

「さっきの腕の怪我もそうだけど、あまり無茶は駄目だよ。僕たちは忍たまだから危ない事はするなとは言えないけどさ、それでもやっぱりしなくていい怪我はするものじゃない」

 薬を全て箱に詰め、伊作は顔を上げた。いつもの柔和な笑みが薄い。
 注がれる視線の先にあるのは先ほど伊作がの左腕に巻いた真新しい包帯。その下には半手甲と肘の中間辺りをざっくりと奔った一筋の傷がある。
 けして浅くないが、動作に支障が出るほど深いものでもない。
 そうなるように、、、、、、、 受けた傷。

「……気づかれていましたか」
「うん、君にしては反応がちょっと鈍すぎたから、ね。わざと受けたんだろうなと思ったよ。留三郎は気づかなかったみたいだけど」

 手裏剣を目の前にしての不自然な逡巡は、を知っている伊作の目には不自然に映ったらしい。
 もとより伊作の(こと人体に関しての)洞察力は鋭い方であるし、怪我が絡んでくると更に目敏くなるから気づかれてもそんなに不思議は無い。
 しかしあの混乱の最中にもしっかり見ていたとは流石であると、は密かに感嘆する。

「大方、血を目印にでもするつもりだったんだろう?」

 薬を詰めた小箱を懐にしまいつつ言われたその言葉に、は降参のポーズ(あまり動かすなといわれたので上げたのは左手だけだが)をし、素直に認めた。

「参りました、その通りです。確かに食満先輩には血の跡を辿ってもらうようにいたしました」

 退却(と見せかけた罠であるが)をするときに食満から投げつけられた手裏剣は、直前のの蹴りの影響でその精彩を欠いており、充分に避けることも武器で弾くことも出来た。
 それができなくても、中に棒手裏剣を仕込まれ簡易的な防具となっている半手甲でもって手裏剣を受ければ怪我などしなかったはずだ。
 そうしなかったのは伊作の言ったとおり、自らの血を目印として使う為。
 勿論、が一番最後に退却することで狙われるようにしていたが、あの時投げつけられた手裏剣を見て咄嗟に使えそうだと思い、行動してしまった。
 その結果が予定よりも早く追いつかれるという事態になり、食満から攻撃を受ける形となってしまったが、それでも食満が確実に追ってきたのだから間違った行動ではなかった筈である。

「八方手裏剣なら毒剣の心配もないと思いましたし」
「それはそうかもしれなけど……あのね、。君のその咄嗟の判断力は素晴らしいと思うよ。忍者として申し分ない能力だ。でもね」

 共に正座をして向かい合った状態で、伊作はの目を覗き込むように見た。
 忍のたまごとして六年間、多くの清濁を見てきたはずなのに、それでもなお瞳の何処にも淀みを感じさせないのは彼の強さなのだろう。
 借り物の顔の中にある唯一の本物である瞳を見ながら、はそんなことをふと思う。
 なんとなく分の悪い話の流れになりそうで軽く思考を逃避させたという事は秘密だ。

「君はもう少し自分を惜しんだ方がいい」
「……惜しむ、ですか?」

 心配そうな陰りを滲ませて言われた言葉に、は何か不思議な単語を聞いたように二、三度瞬いて首をかしげた。

「本気を出すな、ということでしょうか?」
「うーん、ちょっと違うかな?……こう言うと語弊があるかもしれないけど、自分をぞんざいに扱わないで欲しいってことだよ」

 は今度は反対側に首をカタリと傾けた。

「ええと……こう言うのもなんですが、私は割と自分にとって首尾よくいくように行動しておりますよ?」
「でもは自分の安全を第一に考えないだろう?首尾よく状況を動かすために作戦を立てるけど、その作戦を優先するあまり、自分のことを疎かにしているだろ?だから自分の身を切って血を使うことも躊躇わない」

 そういう己を軽んじるところが"ぞんざい"なんだと、語気を強めて保健委員長ははっきり言った。

 そう説明されれば、確かに思い当たる節があった。
 一応、ちゃんと己の安全や状況を推し量って動いているとは自分では思っている。
 けれど、いくら自分のことを考えても、出来る瀬戸際の線を見極めて、そのスレスレまで行動すれば無茶ととられても仕方ないだろうし、己を軽んじているようにも見えるだろう。
 斉藤タカ丸を落とし穴で庇ったときもそうだ。
 彼を庇って、お腹の傷を庇って、そうして肩に怪我を増やしたのは、そうしなければ彼が頭から落ちてしまう危険があったからだ。 が、いま冷静に考えれば何も自分が下敷きになる必要まではなかった。彼が頭を打ち付けぬような体勢に持っていくか、頭だけ庇えばよかっただけなのだから。
 しかしあの時頭に浮かんだのは、"どこまで動けるか"ということ。
 怪我の悪化がどの範囲で収まるか考え、絶対に日常に支障が出るほどにならないと確信し、庇った。仮に、もし怪我が酷くて庇えば絶対に致命傷となると場合であったら、彼の頭を庇うだけで収めただろうが、あのときはそうでなかった。
 一番良い結果を求め過ぎて己への配慮が足りていない。伊作の言葉ももっともである。

「使えるものは全て使うのが忍だけど、そこまで切迫した状況でもないのに身を傷つけるのは良くないよ。小さな傷も致命傷につながる場合もあるんだし、気をつけないと」
「そうですね。色々と仰るとおりです」

 考えが至っておりませんでした。とは俯き加減で素直に反省した。
 その素直さを貴重に思いながら、伊作もまた率直な気持ちを呟く。

「それに、傷が残ったら「善法寺先輩」

 は俯いたまま静かに伊作の名前を呼んで彼の言葉を遮った。
 名を呼ばれた瞬間、ピンッと空気が張ったような気がした。
 はゆるりと顔を上げ、滝夜叉丸の顔で本人と思える笑みを浮かべて言った。

「忍を目指す忍たまにその心配、、、、はないでしょう?」
「そう、だけど……」

 の瞳の奥に凄みを感じ、伊作は頬に汗をかいて言いよどんだ。
 気持ち、あとじさり――伊作は早々に根負けした。

「いや、うん、そうだよね」
「ええ、そうですよ」

 伊作の同意にはニコリと瞳を閉じて朗らかな笑顔を作った。と同時にふわりと張り詰めた空気が溶けるのを感じ、伊作はホッと息をつく。
 この場に鉢屋がいなくて良かった。いや、いないからうっかり口にしてしまったのだけど。

「……………………でも、これだけは言わせて」
「なんでしょうか?」

 伊作は気持ちを切り替えてを見据えた。
 の瞳にもはや剣呑とした凄みはどこにも見受けられなかった。後に尾を引かないのも素直な気質から来るものなのだろう。
 なので伊作も先ほど気押されたことをすぐに忘れることにして、言う。

「今はチーム戦なんだから、僕らを頼ることも考えて」
「? ちゃんと作戦で――」
「作戦上の分担以外にも頼ってくれていいってことだよ。もう本当にこの子は……」

 困ったような呆れたような、そんな笑いを見せて、伊作はポンッとの頭に手を乗せた。ついでに何かに気づいて少しだけ視線を横に向ける。

は何でも一人でやろうとしすぎなんだよ。ねえ、鉢屋」
「そうですね。非常に同感です」
「!」

 いつの間に戻ってきていたのか、振り向けば仙蔵の姿をした男が二丈ほどの距離に立っていた。

「月は――」
「――ひさかた、吉野はみよしの、だろ」

 が反射的に合言葉の一部を口にすれば、枕詞からなる答えをほぼ全部自分だけで答えて、鉢屋が歩み寄ってきた。
 伊作がの頭から手を離すのと入れ替えに、鉢屋はしゃがんでの頭巾の上でポムポムと手を弾ませた。

「出来る事を全部やろうとするのは偉いが、出来ることをあえて人に頼るのも覚えないとな」
「鉢屋先輩にそう言われると何か……怠惰からくるとても駄目な台詞に聞こえます」
「立花先輩の格好をしていても駄目か……!」
「残念ながら中身が鉢屋先輩だと分かっておりますので……」

 あと声も鉢屋先輩のままなので。

「くっ……なんて可愛くない言葉を素直に吐くんだ。伊作先輩パスです!」

 淡々と正直な気持ちを吐き出されて、鉢屋は悔しそうにの頭の上に乗せていた手を引っ込めた。
 どうせ人にとやかく説教じみたことを言うのは性分にあっていないと自分でも分かっているので、さっさと伊作にお鉢を返してしまうことにする。

「ははは……。まあ、でも鉢屋の言っている事は正しいよ。さっきも言ったけど、チームなんだから頼っていいところは頼れるようにならないとね。……さて、と。これについてはまだ色々言いたいことがあるけど、そろそろ動かないとまずいかな?」

 そろそろ次の話しに進めたいし。
 書いてる人間の本音ですよね、それ。

 伊作は雲の明るい部分……太陽があるであろう場所に目を向けてから立ち上がり、鉢屋へと視線をうつした。

「鉢屋、この辺りに他のチームはいた?」
「いいえ。ざっと見て回ったところ、この辺に敵チームの姿は無いですね。やはり向こうで聞こえた爆発の方へ気を取られているようです」

 鉢屋もフラッと立ち上がって答え、右肩を動かさないように腰を上げた後輩を手で示した。

「立花先輩周辺に関しては多分の作戦通りですよ」

 大したもんだと言う鉢屋の言葉に、は右手の人差し指と中指に嵌めていた黒い指サックのようなものをを左手の指に嵌めなおしてから、口の端を少しだけ持ち上げた。

「それは、なによりです。しかし、中在家先輩だけはあの爆発が私たちに向けられたものではないとご存知ですから……」
「ああ、油断は出来ないね。さて、これからどこに向かうかだけど――」
「立花先輩チームの方へ行くのはどうでしょうか?」

 割と早くから考え付いていたのか、鉢屋の言葉に間髪いれずが提案を口にした。

「爆発の近くに私たちはいなかった事を知っている中在家先輩の裏をかくなら立花先輩チームの近くに行くのがいいかと思います。もちろん、立花先輩達ではなく、食満先輩達の姿を借りて」

 長次ならこちらの思惑を読んで裏の裏をかいてくる可能性も考えられるが、素直にこちら側に留まっているよりは危険は少ないとは考える。

「でも留三郎のチームは小平太に……」
「七松先輩は善法寺先輩を蹴ってすぐさま何処かへ行ってしまわれたのでしょう?でしたら久々知先輩や田村が暫く起きそうに無いのか、それとも軽く気絶していただけなのかなんて、きっと分っていらっしゃらないはずです。幸い、お三方の姿は既に隠してありますし、此処にこの格好でいるよりは危険が少ないと思います。それに――」

 左人差し指を口元に持ってきて少し人の悪い笑みを浮かべ、は決定打となる言葉を言った。

「――食満先輩たちの格好はまだ使っていませんから、、、、、、、、、、、狙われる可能性も低いですし」

 の言葉に伊作は少しだけ思案するような格好を見せてから、

「……それもそうだね」

 あっさり頷いた。

「確かに、仙蔵より留三郎のほうが狙われないだろうから、そうした方がいいかもね」
「僕もそう思います。異論なし」
「それでは――」

 ――参りましょう。




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